シングルマザー世帯でも、住宅ローンを組んで家を買うことは十分に可能です。
もちろん、すべてのシングルマザー世帯が家を買えるわけではありませんが、属性によっては住宅ローンの審査に通りやすいほか、すべてのシングルマザー世帯が利用できる補助金制度もあります。
本記事では、シングルマザーと住宅ローンの関係や、シングルマザーが家を買うメリット・デメリット、利用できる補助金制度などについて、くわしく解説します。
シングルマザーが家を買うメリットとは
住まい選びには、大きく分けて「持ち家」「賃貸」の2つの選択肢がありますが、シングルマザーが家を買うのは無理なのでは?とあきらめている人も少なくないでしょう。しかし、シングルマザーが家を買うメリットはたくさんあります。
ここで、シングルマザーが家を買うメリットについて5つのポイントに絞りご紹介します。
①子供に家を残せる
マイホームを購入するほとんどの人が、住宅ローンを利用します。金融機関の多くは、住宅ローンを組む際に「団体信用生命保険(以下、団信)」の加入が必須です。団信は、住宅ローンの契約者が死亡、もしくは高度障害になった場合に、住宅ローンの残債を肩代わりしてくれる保険です。
万が一、住宅ローンの契約者である母親に何かあった場合、住宅ローンの返済が免除されるため、子供に持ち家を残せます。賃貸とは違い、もしもの備えとしてマイホームを購入するのは、大きな安心感につながるでしょう。
ちなみに、団信に加入すれば従来の生命保険の死亡保障を減らせるため、保険料の引き下げも可能です。
②将来的に住居費の負担が軽くなる
住宅ローンを組む際、退職までに完済できるような返済計画を立てれば、老後の住居費の負担を減らせます。物件の種類や資金計画によっては、毎月の返済額を家賃よりも安く抑えることも可能です。賃貸住宅に住み続ける場合、家賃は払い続ける必要がありますし、将来的に家賃が値上がりする可能性もあります。
ただし、マンションを購入した場合は、住宅ローンとは別に毎月修繕積立金や管理費などの費用が発生します。これらの費用も考慮して、マンションを購入する際は、ご自身の年金や貯蓄でこれらの費用を払い続けられるかどうか、しっかりとシミュレーションすることをおすすめします。
③設備やセキュリティの質が高い
分譲マンションは、賃貸物件に比べて設備や内装のグレードが高い傾向にあります。たとえば、キッチンや浴室などの水回り設備が充実していると、家事の効率が上がり、快適な生活を送ることが可能です。また、遮音性の高い壁材や床材を使用している物件も多く、騒音や振動を抑えられきます。
さらに、分譲マンションはセキュリティ面でも優れているのがメリットです。オートロック、ダブルロック、防犯カメラ、また管理人常駐などのセキュリティシステムが導入されている物件も多く、安心して暮らせます。小さなお子さんを持つ家庭では、母親が不在の際も、子供を安心して留守番させることができるでしょう。
④自由にリフォーム・DIYができる
賃貸物件では室内を自由にリフォームできない物件も多いですが、持ち家なら自由にリフォームやDIYを楽しむことができ、暮らしも充実します。マンションの場合は管理規約により制限がかかる場合もありますが、子供の成長やライフスタイルの変化に合わせてリフォームできるのはうれしいメリットと言えるでしょう。
⑤長く住み続けられる
マイホームを買って住宅ローンを完済すれば、購入した住まいが自分の資産になります。賃貸の場合、家賃を払い続けても何も残らず、高齢になると住み替えたくても新規契約が困難になるケースも多いです。将来にわたり住み続けられる家があるということは、大きな安心感につながるでしょう。
シングルマザーが家を買うことにはデメリットも
一方で、シングルマザーが家を買うには次のようなデメリットもあります。
・物件購入の費用が高額
・メンテナンスの手間・費用が発生する
ここで、マイホームを購入するうえで知っておきたいデメリットについて、くわしくご紹介しましょう。
①物件購入の費用が高額
家を購入する際、最大のデメリットと言えるのが高額な初期費用です。シングルマザーの場合、住宅ローンの契約はもちろん、頭金や諸費用などのまとまった費用を払うのも、すべて一人で行わなくてはなりません。シンプルに考えても、負担が大きいものです。
新築物件の場合は物件価格の3〜7%、中古物件の場合は物件価格の6〜13%程度の諸費用が発生すると言われています。仮に2500万円の中古物件を購入するなら、150万円〜325万円の諸費用がかかる計算です。このほかにも、引っ越し費用や家具家電の購入費用も必要になるでしょう。
諸費用だけでなく、頭金が求められるケースもあります。あくまで目安になりますが、頭金の額は物件価格の1〜2割程度です。2500万円の中古物件を購入するなら、250万円〜500万円の現金が必要となるでしょう。シングルマザーにとってはあまりに負担が大きく、貯蓄が十分でない限りマイホームの購入を断念せざるを得ないケースもあります。住宅ローンを長期的に払い続けるうえに、将来の収入に変化が生じたり、予期しない出費に対する大きな不安も残ります。
②メンテナンスの手間・費用が発生する
マイホームを所有するデメリットの一つが、メンテナンスや修繕に関することです。賃貸物件とは違い、持ち家なら建物の修繕や設備の取り換えなどは、すべて所有者自身で負担しなくてはなりません。そのための手間や費用は、決して小さなものとは言えないでしょう。
一戸建ての場合、外壁の塗り替えや、屋根・雨どいの補修、水回りの修理など定期的なメンテナンスが必要です。専門知識や技術がない限り、専門業者に依頼するようになるため、そのための費用を準備する必要があります。急な故障や破損にもすぐに対応しなければならないため、急な出費も防げません。
マンションであれば、メンテナンスや修繕を自分一人で請け負わなくてもよくなりますが、そのための管理費や修繕積立金が毎月発生するので、手間はかからずとも費用負担が大きいです。
メンテナンス時期と教育費のピーク時期が重なると、膨大な出費が発生します。シングルマザーの場合、働き手が一人なので収入を増やすのは困難です。購入を検討しているなら、メンテナンス時期や家族のライフイベントの時期を見据え、資金計画を立てることをおすすめします。
シングルマザーと住宅ローンに関する基本的な知識
シングルマザーと住宅ローンの関係について、まずは押さえておきたい2つのポイントを確認しておきましょう。
シングルマザーであること自体は審査にほとんど影響しない
国土交通省住宅局が発表した資料(※)では、金融機関が「融資を行う際に考慮する項目」として、金融機関から回答率の高かった順番に次の項目を挙げています。
- 完済時年齢…99.1%
- 健康状態…98.2%
- 担保評価…98.2%
- 借入時年齢…97.8%
- 年収…95.6%
- 勤続年数…95.2%
- 連帯保証人…95.0%
- 返済負担率…92.2%
これら以外にも「考慮する項目」はいくつかありますが、「シングルマザー」という項目は存在しません。
あえて挙げるならば「家族構成」という項目がありますが、家族構成を考慮すると回答した金融機関は「24.5%」と、他の項目に比べて圧倒的に低い数値です。
これらの数値からも分かる通り、シングルマザーであること自体が住宅ローンの審査に影響することは、ほとんどないと考えて良いでしょう。
※参照:令和2年度民間住宅ローンの実態に関する調査結果報告書(令和5年3月31日訂正)|国土交通省住宅局
年収ごとに融資額の目安を把握しておく
シングルマザーであること自体が住宅ローンの審査に影響する可能性は低いと考えられますが、仮に審査に通ったとしても、実際に契約する融資の額には注意しましょう。
金融機関が提示する貸付限度額を満額で契約すると、返済に苦労する可能性があるからです。
一般的に、返済負担率(収入に対する返済の比率)が25%以内であれば、無理のない返済が可能と言われています。
以下、手取り年収ごとに返済負担率25%となる借入額の目安を見てみましょう。
- 年収100万円…680万円
- 年収150万円…1020万円
- 年収200万円…1360万円
- 年収250万円…1701万円
- 年収300万円…2041万円
- 年収350万円…2381万円
- 年収400万円…2721万円
※計算条件
・返済方法:元利均等
・当初金利:1.5%
・返済期間:35年
・返済負担率:25%
・連帯債務者:なし
手取り年収300万円前後があれば、土地付き注文住宅を新築で購入することも、決して無理ではありません。
また、手取り年収が低い場合でも、空き家バンクなどを利用すれば中古戸建を購入できる可能性があります。
シングルマザーが住宅ローンを申し込む際に考えるべきこと
シングルマザーが住宅ローンを申し込むにあたり、事前に考えておくべき重要な2点を確認しておきましょう。
返済負担率をどの程度にするか?
上で「返済負担率」についてご紹介しました。手取り年収に対する返済の比率が返済負担率です。
返済負担率の目安は各世帯により異なりますが、一般的に、余裕を持って返済するためには返済負担率を25%以下に抑えることが理想とされています。
高くても35%までに抑えておいたほうが良いでしょう。
頭金を入れるかどうか?入れるならいくらか?
頭金を入れても入れなくても、住宅ローンを契約することは可能です。
ある程度の預貯金をお持ちならば一部を頭金として設定できるのが理想ですが、緊急時の支出に備えているお金ならば、無理に頭金を入れる必要はありません。
なお、頭金の金額に基準はありませんが、一般的には物件購入価格の1~2割ほどと言われています。頭金を入れる際の参考にしてみてください。
シングルマザーが家を買うときに利用できる補助金
シングルマザーにとって、マイホームの購入は金銭的な負担が大きいですが、国が提供する「母子父子寡婦福祉資金貸付金制度」を利用すれば住宅購入資金の借り入れが可能です。母子父子寡婦福祉資金貸付金制度は、20歳未満の子供を養育する未婚の母親、父親、また寡婦に向けた住宅購入資金の貸付制度で、家族構成や収入に関係なく利用できます。
母子父子寡婦福祉資金貸付金制度の条件や限度額については、以下を参考にしてください。
一般条件 | 特別条件 | |
貸付対象等 | 母子家庭の母、父子家庭の父、寡婦 | |
限度額 | 1,500万円 | 2,000万円 |
据置期間 | 6か月 | |
償還期間 | 6年以内 | 7年以内 |
利率 | 保証人あり:無利子、保証金なし:年1% |
参考:母子父子寡婦福祉資金貸付金制度|内閣府 男女共同参画局
このほかにも、各自治体で独自の補助金制度を設けているケースもあります。ぜひチェックしてみましょう。
住宅ローンの審査に通りやすいシングルマザーのタイプ
以下でご紹介するタイプの方は、シングルマザーであっても、住宅ローンの審査に通りやすい傾向があります。
もちろん、以下の条件に該当していなくても住宅ローンを借りられる可能性は十分にあるので、諦めずに金融機関へ相談してみましょう。
正社員や公務員
シングルマザーであっても、比較的大きな会社や歴史ある会社の正社員、または公務員ならば、住宅ローンの審査に通る可能性は高いでしょう。
将来的な安定収入が見込めるため、十分に返済できる可能性があるからです。
一方で、パートやアルバイト、契約社員、派遣社員などの非正規雇用者の場合、正社員・正職員に比べて住宅ローンの審査では不利になる可能性もあります。
ただし、非正規雇用者であっても、勤続年数が長く安定的な収入を得ている方ならば、審査に合格する可能性は十分にあります。
勤続年数が長い
同じ職場への勤続年数が長ければ長いほど、住宅ローンの審査に通りやすくなる傾向があります。
勤続年数の長い職場は今後も辞めない可能性が高く、継続的な安定収入(=継続的な返済)が予想できるからです。
住宅ローンの審査で有利になる勤続年数の基準は「3年」と言われることもありますが、金融機関の中には住宅ローンの申込条件として「勤続1年」と設定しているところも少なくありません。
年齢が若く健康状態に問題ない
年齢が若くて健康状態に問題のない方なら、将来的に長く安定収入を確保できる(=安定的に返済できる)可能性が高いため、住宅ローンの審査に通りやすくなると言われています。
なお、健康状態に問題はなくても年齢がやや高い場合、若い人に比べると病気になるリスクが高い分、審査が不利になることもあります。
シングルマザーが家を買うときの注意点
収入が減るリスクが少ない人や、無理なく完済できる年齢の人なら、将来に備えてマイホームを購入する選択肢もありでしょう。そのうえで、知っておくべき注意点があるとすれば次の2点になります。
・ライフスタイルの変化に対応可能か
・ゆとりを持って暮らせる住環境か
では、それぞれの注意点について具体的にご紹介しましょう。
ライフスタイルの変化に対応可能か
マイホーム購入は、人生における大きな決断です。多くの場合、その場所で長く暮らすことを前提に家を買いますが、子供の成長や家族構成の変化など、ライフスタイルは予想外に変わります。
たとえば、子供の進学に合わせて住み替えが必要になったり、子供が独立して家を持て余してしまうケースも考えられます。そんな時、売却しやすい、あるいは貸しやすい物件であれば、住み替えもスムーズです。
駅に近い、日当たりが良い、周辺環境が充実しているなど、立地条件の良い物件は、住宅市場でも人気が高く、将来的に売却や賃貸に出しやすいというメリットがあります。マイホームを購入する際は、現在の希望条件だけでなく、将来のライフスタイルの変化も考慮し、売却や賃貸の可能性も視野に入れて物件を選ぶことが大切です。
ゆとりを持って暮らせる住環境か
仕事、家事、育児を一人で担うシングルマザーにとって、住む場所は日々の生活を大きく左右する要因の一つです。利便性に優れたエリアに住むことは、時間的にも精神的にもゆとりを生み出し、親子共に健やかな生活を送る上で非常に重要となります。
たとえば、保育園のお迎えがある場合、職場と保育園、そして自宅の動線がスムーズな場所であれば、移動時間を大幅に短縮できます。これにより、お子さんと一緒に過ごす時間や、自分のための時間を確保しやすくなるでしょう。
また、職場や学校に近いことは、通勤・通学の負担を軽減するだけでなく、緊急時にも迅速に対応できるという安心感にも繋がります。さらに、スーパーや病院など生活に必要な施設が近隣に揃っていれば、買い物や通院の時間を短縮し、日々の生活を効率的にこなすことが可能です。
子育て中のシングルマザーにとって、時間は何よりも貴重です。利便性の高いエリアに住むことで、時間のロスを減らし、心身ともにゆとりを持った生活を送れば、お子さんの成長にとっても良い影響を与えるでしょう。
【まとめ】シングルマザーでも十分に家を買える可能性がある
「シングルマザーだから家を買うのは難しいのでは」と不安に思う人も多いでしょうが、シングルマザーだからこそ利用できる補助金制度もあり、職業や年齢によって住宅ローンも問題なく利用できるので、あきらめる必要はありません。
資産として残したり、将来にわたって住み続けられる家を確保したりなど、シングルマザーが家を買うメリットもたくさんあります。マイホームを購入する際は、無理のない返済計画で将来に備えましょう。